「立ちたさ_」展 2000

神楽坂まち飛びフェスタアーティストプロジェクト参加企画
コラボレーション作品展
日時
2000年10月15日-10月22日
会場
東京理科大維持会館(神楽坂の元料亭) 新宿区 東京
出品作家
小熊栄(写真)
菊地英二(写真)
にしむらまさひこ(映像)
マノヨシコ(イラスト・絵本)
山田晋也(写真)
同時開催
10月15日 行為「立ちたさ_ 展示空間で立つ」同展示会場にて
10月22日 ワークショップ「水平をさがせ!」
     公開パフォーマンス「立ちたさ_ 坂道で立つ」

「立ちたさ」 × 小熊栄(写真家)


「立ちたさ」 × 菊地英二(写真家)


「立ちたさ」 × にしむらまさひこ(映像作家)


「立ちたさ」 × マノヨシコ(イラストレーター)


「立ちたさ」 × 山田晋也(写真家)


コメント
レビュー
天鼓
GetUp,StandUp

いま、この時代に「立つ」ということ
2000.12.8

立つことが難しくなっている。子供らは地べたにしゃがみこむ。大人でさえも受けて立てるような時代ではないのだから、無理もない。特にこの日本という経済大国は、人が人であることを無視して増殖を続けた。自らを奮い立たせることで日々の暮らしをしのいでいるものの、いまの日本人の立ち姿には何の迫力も爽やかさもない。
伊宝田隆子さんのやろうとしていることは、この時代のこの国だからこそ生まれて来たテーマであるのかもしれない。そして、この時代への、ひとつの大きな挑戦でもあるだろう。「立つ」というありふれた行為、しかし、いまやそれは私たちが改めて問い直さなければならない行為であるということ。
時間をかけて、そのからだを水平から垂直へと移行する。極めてシンプルな日常に埋もれた動作が、パフォーマンスとして展開されることの興味は計り知れない。「立つ」という動作によって起こる肉体の作業、指の、足の、腕の、胸の、腰の、背中の、大小の筋肉や骨の動き。立とうとする意志力と連携するからだ、そして抵抗、葛藤。私たちが無意識に日々繰り返す動作は、なんと素晴らしく完成されていくことか。ドラマテックであり、愛おしくもある。
このパフォーマンスの、もうひとつの豊かさは時間である。より速くということに重点を置くことの愚を、誰しも内心知ってはいるのだ。が、不安が足踏みして時間を早巻にする。静かに在ること、思索することなしに私たちは強くなれない。伊宝田さんのつくるあまりにも緩慢な時の流れは、速さを追うことの何であるかを私たちに突きつける。
「立つ」ことに対する執着がパフォーマンスとして動き出した。奇を衒った派手な表現よりもこの内省的な『立ちたさ』に、次世紀への希望が見える。
「神楽坂まち飛びフェスタ」実行委員アーティストプロジェクト担当
松永@もうこ

その日、タカコさんは、1時間をかけて立ち上がった。
神楽坂の路上。傾斜角度7度。30分で立ち上がると聞いていたけれど、やっぱり傾斜があると、重心のとり方、垂直の見つけ方が難しいのかなと思った。歩いていた初老のご婦人が立ち止まって、「何なさってるの?」と聞く。答えると、「まぁ、大変ねー」と言って、ずっと見続けている。鳥肌が立った。実際、座って見ている者には少し辛い気候ではあったが、いや、そうではなくて、感動したのだ。その場の奇妙に緊張した空間の中にいとも簡単にすんなりと入ってきたその婦人に対して。そして、私にとっては日常的な神楽坂の、非日常的なその空間に。
「そうだよ、立ち上がるってことは大変なことなんだよ」
見たことのないもの、聞いたことのない音、思いつかない視点
だいたい世の中は想像できるものばかりで、つまらない。10才の時から、そう思っていた。大人はやっぱり大人だし、社会も「こうかな」と考えていると、やっぱり「こうだ」。私の人生も思った通りのこと以外にはならないのではないかと、時折、絶望的な気持になるのだった。ただ、たまーに、私の想像を超えるものがあって、そういったものに出会うと、鳥肌が立ち、無条件に素晴らしいと、喝采してしまう。そして、頭とからだをやわらかくしておくと、そういう場面に出会うチャンスが増えるということを学習した。
今回、私が「神楽坂まち飛びフェスタ」でやろうとしたことは、そういうことだ。見たことのないもの、聞いたことのない音、思いつかない視点、想像を超える場面。「アート」という記号が何を意味するかは、人それぞれだけれど、私にとってはそれが「アート」。そういったものに出会いたい。「アート」が生まれる得る場所を提供したい。そして、その思想のやわらかさを多くの人に感じてもらいたいということだ。
この試みは、ほとんどタカコさんの一連の活動によって、半分くらい成功したと感じている。本当に感謝している。
タカコさんに頼んで良かった。

展示をコラボレーションという形にしたのも、よかった。新潟トリエンナーレで宿泊したロッジでうんうんとうなっていたのが、きちんと実になったと思う。努力をしたものは、きちんと伝わるということだね。
「立ち上がるってことは大変なことなんだよ」神楽坂のこと、「まち飛び」のこと、タカコさんに依頼した経緯などを書こうと思っていたのだが、個人的な反省点ばかりが思い浮かんでうまく書けない。いずれにしても、タカコさんのおかげで、2000年の秋の神楽坂は、一つのエポックとなり得た。惜しむらくは、もっとたくさんの人に見てもらい、感じてほしかったと思うのだが、タカコさんのことだから、これからもその熱意で活動を続け、多くの人にそのチャンスができることと思う。今回のイベントがその契機になってくれたら、こんなに嬉しいことはない。

ワークショップ「水平をさがせ!」

公開パフォーマンス「立ちたさ_ 坂道で立つ」

日時
2000年10月22日
場所
神楽坂のいちばん坂が急だと思われる場所
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